【 野帳の補助線 -第135回の 九本目- 】 親バカちゃんりんも 『ゆく年来る年』
2018年 1月号 第135回 ヤニ喰い共の『ゆく年来る年』より...
―――― うちも今、カミさんや娘から『パートさんやバイトさん確保にも、絶対に有利になる』って、強烈プッシュでね。だったら試しに来年から駅前の方をゼンメンにしてみようかって、ただいま計画中なんだよねぇ
『しーさん、マスターが手が空いたらで良いから 席まで来てくれってさぁ』
へぃへぃ、直に一段落するから 伺いましょうよ、
『ホールのバタバタも一段落だし、暫くははちぃ子と二人で回せるからさぁ。しーさん 店長と一杯やってきてよ』
―――― やれやれ 姐ぇや、それでも労ってくれているつもりかいな
◤ あれれ?
「へぇ~、そんなのが隠し味だったんスねぇ。ソレ、ウチの店でもやらせて貰って良いスかぁ?」
「良いわよぉ。美味しいと思ったり お客さんに喜んで貰えると思ったら、ドンドン真似して頂戴」
「サンキュウ~ですぅ。他にもなんか ないスか?ちょっとした隠し味とか裏技みたいの…
「だったら、ホラ。こっち、カウンターの中に入って見ていっても良いのよぉ」
「えぇ~ 超サンクスですぅ~」
―――― ホールに設けられた、元バイキングカウンターで調理中の ちぃままの手元を覗き込んで盛り上がってるお嬢さんて?
「悪いね、しーさん。忙しいところをさぁ」
いえいえ、ホールもちょうど一段落のようですから、
「それにしても何着ても似合うねぇ。コースの菜っ葉服から ハウスを徘徊する時のブレザー姿。今日は 洗い場のエプロンと長靴姿?」
茶化さないで下さいってば、
「はぃ、しーさん。ちぃ子から のど湿しだって。マスター、これは ちぃままのオリジナルの“お試し”だそうです」
「おっ、ゴチになりましょうよ ...タマネギと厚切りベーコンのホイル焼き?」
「ニンニクを漬け込んだオリーブオイルや お酢に漬け込んだ生の赤唐辛子なんかが隠し味 ...あとは企業秘密です。お好みで チリペッパーとか粉チーズでもお楽しみ戴けます。まだ焼きたてでアツアツですから お気をつけてお召し上がり下さい」
「へぇ~ フライパンに載せたまま 、ジュゥジュゥいわしながらテーブルに持ってきたかぁ。流石ちぃさま、多芸だねぇ」
―――― さて 暮れからのインフルエンザ騒ぎなんですが、昨日の夕方には お嬢と寡婦のシェフにも飛び火しましてね。今日は二人とも無理矢理休ませた次第。本当は公休だった姐ぇやに出勤して貰って ホールの担当を。ちぃままがカウンターで調理して、あたしが洗い場。ピークには フロント件総務の嬢もホールに投入してって段取りの、年改まって最初の日曜日でありますや
「それにしても、お嬢もヤモちゃんもインフルでダウンなんて、しーさんもいよいよアブネェ~のと違う? ヒッヒッヒッ」
ぃゃ、正味の話が 姐ぇやも ちぃままも除夜の鐘は一緒にすごしたそうなんで、あっちの二人の方が心配でんす、
姐ぇやも ちぃままも?しーさん なおヤバイじゃん、ケッケッケッ」
―――― やれやれ
「でも、インフルの潜伏期間て、一ン日か二日でしょ。一頭最初の洗い場の小母ちゃんから もう一週間以上たってるじゃない」
いや、ググってみたんですが 感染してから発症するまでに 一週間から十日くらいの間のあった症例もあるそうですよ、
「そしたら、なおさら しーさんもアブネェなぁ。くっくっくっ...」
―――― 大概にしなさいってば
「それにしても、しーさん 暮れも 大分前から休み無しじゃぁないの?」
まぁ、小正月を過ぎたら お休みの一つもいただきましょうか、
◤ そはそれとしてぇ...
お呼びの御用向きは? ...ってぇか 今日はコースにはお出にならないんで?
「あぁ、カミさんと 上と真ん中の娘の三人で廻らせて貰ってるよ。俺が一緒だと そぉじゃないコレジャナイって 口はさんでくるから ゴルフが愉しくなくなっちゃうって敬遠されてるし。アレが ゴルフなんか全然興味がないんだけど、ここのコースのFacebookページのコメント欄で絶賛されてるヤモちゃんの“お正月のお奨め”と福島の地酒の組み合わせを『チョォ~ 食べたい』ってぇからさぁ…
―――― 名うての教え魔のマスターの『アレ』ってぇのは、先ほどの カウンターで調理中のちぃままの手元を覗き込んで『ちょぉ~ スゲェっす』とかはしゃいでいた あのお嬢さんだそうですが...
…子守ついでに 留守番だヨォ。天気も良いのになぁ~ もったいねぇなぁ~ ...ついでに、そろそろ ヤニ切れてきたなぁ~」
そぃたらぁ、駐車場の大使館に一時避難されてきたら如何ですか?
「ダメなんだよ、ウチの車。俺の移動用のポンコツ以外ゼンメンなんだ」
―――― すりゃ ご愁傷様
「まぁ いいや。実はさぁ。アレなんだけど…
―――― 『アレ』ってぇのは、マスターの末娘さんですよぉ
…今年 高校卒業て、春から 調理の専門学校に通うんだけどさ。本人も 料理とか接客好きで、今までも 店の方も手伝ったりして お客さんからも可愛がって貰ってたんだけどね。如何にしても 家族経営の居酒屋に居るだけじゃぁ、親の俺たちが幾ら厳しくしたって 世間が狭くなっちゃうだけじゃぁない」
―――― いや、可愛くってしょうが無いってぇのが 見え見えですよぉ
まぁ、それでしたら お知り合いのお店とか、ファミレスとかに行かせてあげるのもぉ...
「それがさぁ、アレって 俺たちも年取ってからの娘じゃん。カミさんも 上の二人も猫ッ可愛がりでさぁ」
―――― 自分が一番囲っておきたいくせに、いない人のせいにしてんのも見え見えですよぉ
「でさぁ。しーさんのトコで、ちょっと世間の風に吹かしてやってくンねぇかなぁと思ってね。ここだったら、カミさんや 上の二人も安心だろうし。まさかに、俺の娘だって廻りに知れ渡ってぇたら しーさんだってそうそう“悪さ”もできねぇだろうし」
―――― おぃ、ちょとまて
「まぁ、学校に通うついでの小遣稼ぎなら ウチの店でもできるんだけどさぁ。学校の合間に ここに通わしてもらうだけでもさぁ。ここで マムの話を直に聞いたり、ちぃままやお嬢の接客を見たりすることって、アレにとって 学校に行くよりも良い勉強だと思うんだよね」
まぁ、そうまで仰って戴けるとぉ...
「ね、キーパーの魔の手も 未然にブロックできるでしょ」
―――― おぉっ、大概 聞き捨てならねぇ...
「はいっ、お待たせしましたぁ。お飲み物のお代わりと ちぃ子サンのお奨め第二段お持ちしましたよぉ」
―――― なんだとぉ?
「あれ? なんで?なんでお前が エプロンなんかしてサービスしてるの?」
「だって、ホール忙しそうだしぃ。今日はちぃ子サンにいろいろ教えて貰ったから、ちょっとお手伝いして お礼しようかなぁ ってぇ~」
「はぁ?そぉ云う話だったら 俺が今 、しーさんにだなぁ…
―――― いきなりエプロン着けて トレーにお酒と料理を載せて運んできた マスターのところの末娘でありましてぇ
「そぃから パパァ。アタシぃ、ちぃ子サンのショ~カイって事でぇ。マムの出張が終わったら ココのバイトの面接受けるからぁ。なんかさぁ、ココって チョー愉しそうなんだもん」
―――― バイキングカウンターのちぃままが、些かならぬ当惑のいろで手を振っておりますがぁ...
「って ことで、しーちゃん?しータン?影の副支配人サン?これからよろしくお願いしますッすぅ」
「まっちゃ~、五番さんの下げ、頼んで良いぃ~?」
「姐ぇさん 了解しましたッすぅ」
―――― 公園で滑り台に駆け出す子供の如に愉しげな 居酒屋のマスターの末女でありましてぇ...
「おいっ、ちょっと待て。なんだその、今からの『しータン』てのわぁ~」
「コラァ まっちゃ~、ホールで走るなぁ~」
「すンませン、姐ぇさぁ~ン・・・・・・
―――― やれやれ、今年は本当に賑やかになりそうだ...
A Golf Courase Maintenance Fable
Another Time Another Course
...From His Field Note 2018_01_07
そを人は 虚実の皮肉と云ふさうな...