【 野帳の補助線 -第135回の 五本目- 】 倶楽部を歩けば そこかしこでの『ゆく年来る年』
2018年 1月号 第135回 ヤニ喰い共の『ゆく年来る年』より...
―――― でぇ、今日の御用向きは?
「だから、どうなんだって話だ」
ですから、主語をお願いします
...で、どうなんだ?」
って、いつも申しちゃおりますが...
「だから少しは察してくれと言ってるだろ。洗い場の小母ちゃんがインフルエンザにやられて休んでいるんだろ。他に熱の出ているやつとかは居らんのだろうな?」
◤ あのぉ ...僭越ながら申し上げますけれどもぉ
...そんな大きなマスクして 酷い鼻声で、目だって随分と充血しておられるようですしぃ。この僕には、仰るご自身の御身こそが案じられてなりませんがぁ、
「なんだそれは 厭味のつもりか」
―――― 睨んでみせたつもりでしょうが、熱惚けたコジュッケの小父さん。いつもの凄味がありません
あのぉ、はなはだ恐縮ですが。お帰りになって お宅でお休み下さい、
「なんだ、お前 この俺に指図をするつもりか」
指図云云では無くて、現場からのお願いです。もしも今すでにインフルエンザの潜伏期にはいっているとしたら 周囲への感染のおそれもありますんで。うちのような細やかな暖簾。インフルエンザのパンデミックでも起きたら 即営業ができなくなっちゃいますんでね。少しでも疑いがあったら 即検査。まぁ、明日になって高熱や関節の痛みなんかが発症したらでも...
「わかったわかった。今更お前から聞かされるまでもないわい。帰ってやるから安心しろ ...それにしても、この暮れになって お前に説教されるとは。俺も随分とヤキが回ったもんだな...」
老婆心ながら、インターの脇のレストランにもお立ち寄りになりませんよう、
「わかったから、とっとと去ね。もしもこれがインフルだったら、お前にも疾くに感染っているかもしれんのだぞ。お前も 来年を良い年にしたかったら、年初から風邪で寝込んでいるわけにいかんだろぉ」
はいはい、尻尾を巻いてお暇いたしますです...
...んもぉ、申し訳ありませぇん。こんな格好でウロウロしちゃってましてぇ ...ええぇ?似合ってますぅ?じゃぁ来年から私のこと“給食のおばちゃん”って呼んで下さいますぅ?」
―――― 言う通り 白いスカーフに白い割烹着、白い長靴と云うものものしい出立ちのちぃままを囲んでいた フロントロビーのお客さんがどっと笑い崩れております。ちぃまま、子供が拾ってきたインフルエンザを貰ってしまって、どうやらこの春永は残念な寝正月となりそうな 洗い場の小母ちゃんの代打ちで昨日から厨房に入っておりまして。今日は明日からの“お正月特別メニュー”の仕込みの手伝いもするとかしないとか...
「ねぇ、ホント皆さん ぜひ良いお年をお迎え下さい ...えっ?私にも良い年を?ありがとうございますぅ。きっとあたし 来年は良い年になると思ってます。もちろん皆さんと一ですよ。一緒に良い年にしましょうねぇ...
...おっ、キーパー。今年もどうもお世話様」
はいはい、こちらこそありがとうございましたぁ。ってかぁ 皆さんまた、もの凄い勢いで吹かしてらっしゃいますねぇ、
「なんたって、ココで吹かせるのも今日限りでしょぉ」
「そぉそぉ、今生の名残ってやつだよぉ」
◤ 吸わないと死んじゃうってぇのかゃ
―――― どこまでやにに執着しているんだ この小父さん達は ...そぅいえば、明日の元日からコースは全面禁煙であります。この スタートロビーの指定喫煙所の灰皿や椅子なんかも 営業終了後に撤去の段取りとなっておりますが。先にも忘年会を開いて下さった やにっ喰いの“モクモク会”の有志の皆さんが、プレー後の最後の一服に勤しんで居られましてね ...ってぇか おぃ、こりゃぁ 一服や三服どころの煙じゃぁねぇだろぉ。ったく あたりってば 暮れの御大師様の境内さながらに煙っちゃっておりますですよぉ...
「まぁ 最後の最後の配車室があの副支配人だってってのが...」
「それもまた ご愛敬ご愛敬」
「そんなことよりキーパー。来年も、俺たちヤニ臭いゴルファーも集う良きコースでヨロシク。良い年になると良いねぇ...
―――― はいはい 来年もお手柔らかに願います
「キーパー、転圧はこんな感じでOK? ...そぉ、じゃぁ そろそろ出かけるよぉ」
―――― 通称“№10Hole”こと アプローチ練習場。最終組のお客さんを追いかけてパッティンググリーンを転圧してやろうって段取りの 姐ぇやであります
「でもさぁ、てっきり今日はシートかけだとばっかり思ってたけどさぁ」
まぁ、朝方 雪もちらついたし。今夜の予報も危なっかしいからねぇ。明日はスタートもゆっくりめだし。勘弁して貰いましょ ...んで、姐ぇやは 今日は終わったらどうするの?
「今夜?ちぃ子とお嬢と シェフとで、カウントダウンして 氏神様に初詣ぇ」
男っ気は?
「そんなの要らない、面倒臭ぇだけだし」
―――― おいおい
「それよか、あいつの段取りが盛り沢山だけど、大丈夫かね。ピッチマークはアタシが潰してから転圧するけど。なんならカップ切りとか アタシが ...まぁ、まかしても大丈夫か。あいつも少しは成長してるしねぇ。なんだし転圧終わったら、九番から逆走して ブロアくらいは手伝えると思うよぉ」 うん、そのあたりは 無線使って上手に連携して下さいな、 「ダメダヨこんな ボッコちゃん。使いモンに無んないし。アイツに無線入れるのも面倒臭いしさぁ」
―――― やれやれ
「ま、あいつも少しはデキる様になってきたしさぁ。今年はうちはカケルの奴も来て、ハウスにはちぃ子も来てくれたし。来年からは、きっと良い年になると思うよ...
...済まないねぇ。厨房のインフルエンザ騒ぎなんかや ハウスの灰皿撤去やら喫煙所の模様替えなんかもあるし。あたしがコースに出られないからねぇ ...それにしても お前ぃさん。これが一廻りしてくると 灰皿やら煙草の看板やらで さらに荷物が増えちゃうんだから。余程に要領よく積み込まないとわやになっちゃうよぉ、
「いやぁ、ホント。こうしてみると 改めてもの凄い荷物ですよねぇ。えっへっへっ、なかなか忙しい大晦日にしてくれたじゃぁないですかぁ」
―――― パッティンググリーンの転圧の後を追いかけて、背負いのブロアで 三連の乗用モアが持ち込んだ芝滓なんかの清掃をして。ホールカップの切り替えに合わせて、新品のホールカップと 新品のピンフラッグを着けたピンとに交換して。ティインググラウンドは 洗浄・再塗装したティーマーカーと交換。ついでに 灰皿だの喫煙場所の指定や 禁煙の案内なんかの看板の引き上げ ...なかなか忙しい段取りのボクちゃんの軽トラックの荷台は、あれこれの荷物が満載されていましてね。この間までだったら、こんな段取りを背負ったら 疾うに泣きが入っちゃっていたであろう ボクちゃんでありますが。なるほど、姐ぇやの言う通り、なかなか逞しくなりました
んで?今日は終わったら どうするの?
「今日ですか?ruby>カケちゃんカケル君</rubyと合流して、ゲームやりながら カウントダウンですぅ」
あの?スマホでピコピコするやつ?
「ピコピコって ...へっへっへっ、今時 ピコピコいいますかぁ? あつそう言えばキーパーは昭和の人ですもんねぇ。でも、平成だって もぉ終わりなんですからぁ。そう言えばキーパーは、大晦日の夜は ...どうせ呑んで喰って、明日が早いからって除夜の鐘も聞かずに寝ちゃうんでしょうけど。イネドコロして、コースにインフルなんか持ち込まないで下さいよ」
―――― イネドコロって 新潟とか秋田とか? ...ってか、すりゃ もしかして『居所寝』かいな。前言撤回。此奴 全然進歩がありませんですわ
「ボクねぇ、来年は良い年にできそうな気がするんですよぉ。そのスタートで インフル 真っ平ゴネンですからね」
―――― それを云うなら ...もぉいいや。とまれ皆さま 良いお年をお迎え下さい
A Golf Courase Maintenance Fable
Another Time Another Course
...From His Field Note 2017_12_31
そを人は 虚実の皮肉と云ふさうな...