【 第135回の補助線 一本目 】 コースの備品も『ゆく年来る年』
2018年 1月号 第135回 ヤニ喰い共の『ゆく年来る年』より...
―――― さて、来年の春永も朔日からのコース全面禁煙をうけまして、月例会の常連さんを中心にした“やにっ喰い”のモクモク連さんの忘年会のお席であります
...キーパ-、注文貰った旗やピン、カップだけど、管理棟に届けといたよ」
◤ すりゃ わざわざと...
...ありがとうございました。して 伝票は...
「工場に姐ぇやがいたから 検品してサインして貰ったよぉ ...あっ、お嬢。キーパーとワタシに大ジョッキ二つと、コイツにはコーヒーかなんか ...なんでもいいや。どうせだから 今日のお奨め三つ頂戴。ワタシの伝票で」
あれ、大盤振る舞いじゃぁないですか。ごちに預かっちゃって良いんですか?
「まぁ、暮れのご接待代わりてぇことでさ。キーパーは夜の接待とか受け付けてくん無いし ...それに やっぱりキーパーんトコは飯が美味いからさ」 ―――― なんだかご機嫌の 何でも屋の下ネタさんであります
んで、こちらさんは?
「あぁ、今度ウチの中途採用の…
――――ってぇことで、早速の大ジョッキ営業の運転手かいな
「それにしてもキーパーは、毎年の暮れに必ず ピンフラッグとピンと ホールカップをご注文下さいますけれども...」
―――― お名刺いただいて ご挨拶いただいて ...随分と実直な雰囲気でありましてぇ ...てか、もぉ過去の注文の傾向とか把握しているのかいな
「この人の昔からのお約束でね。幾つもコース渡って歩いてるけど、どこでも何時の年あけでもそうなんだよ。新年 元旦は新品の旗とピンとホールカップの三種の神器に、再塗装してピカピカのティーマークでお祝いして営業を始めるんだってぇ ...一種の験担ぎだな」
まぁ、あたしが気持ちが良いからそうしているだけでしてね。すれば お客さんも気持ち良いんじゃぁないのかなってだけさえ、
「ほぉ...」
「ここのコースの軽っトラはみんな荷台にコンテナが着けて有ってさ。いろんな道具が放り込んであるけど、中に新品の旗なんかも入ってるんだ。旗が汚れていたり解れていたのを見つけたら即交換 ...が コースの連中に徹底されてんのね。なんだっけ?『旗の解れは コースの解れ』だっけ?」
むかしねぇ、あれこれ教せぇていただいた方がねぇ『毎日コースを見ていれば 旗の解れくらいすぐに気がつけるはずだ。旗の解れ如きを見逃したり 見過ごしたりしてぇるのは、何んにも見ていないのと同じだ』ってね。だから ホールカップやティマーカーの塗装の剥がれとか、ピンの疵やささくれとかも同様に『キーパーの目の曇り』なんだって...
「ありゃぁ おっかない人だったねぇ。普段は気の良いオッサンなんだけど...」
しだらの無い仕事してぇるのを見つけられると すりゃ剣幕でしたねぇ、
「今何してるの?アノ人」
なんだか、どこだかの植物園の...
「メンテ?」
いえ、植物園の脇の食堂で フライパン手にしてるらしいってところまでは消息を聞きましたけど、その後は あたしもさっぱり...
「キーパー、そう云えば キーパーんトコは、門松ってどうしてる?」
◤ 門松ですか?
うちは 普段グリーン刈りの後 もっぱら植木の手入れなんかをしてくれてぇるおぃちゃんがねぇ。こだわりの逸品を毎年拵さえてくれるんですよ。今も機械庫で実に愉しげに制作中でんす」
「それさぁ。今年は無理でも 来年からとか 頼んだら余計に作って貰ったりできる?」
すりゃぁ、早めに言ってくれれば 幾対いかなら出来なかぁないかもしれませんけど?
「いやさぁ。最近『門松を作ってくれてた年寄りが辞めちゃって』とか『とってもソコまで人が回せない』とか、泣きが入っちゃってるキーパーが結構いてさぁ。かといって、本職に頼むと馬鹿高いから 支配人良い顔しないし。暮れの頭痛のネタなんだよね。もしキーパーんトコでやって貰えるなら、注文とか納品とか 材料の調達とかはうちで全部やるからさぁ。出来上がりまでをやって貰えないかなぁ」
まぁ、おぃちゃんに相談はしてみても良いですけど ...ただねぇ。門松とかって、作る人とか 飾る人によってのこだわりが凄いですからねぇ、
「なぁによ、そんなの ダァイジョウブ ダイジョウブゥ」
―――― あんたのそれが一番危ないんだ
「キーパー、門松って そんなに違います?」
違いますよぉ。たとえば、孟宗竹に吹いている白い粉が落ちないように 切り出す時から加工する時から 滅多に気を遣う人と、きっちり拭いて落としちゃうからって 全然拘らない人。三本立てる竹の 斜めに切る位置を揃える人、一番高いのをちょっと飛び出させる人。一本だけ飛び出させて 残り二本を揃える人。竹の廻りに飾る松の雄松雌松に拘る人、雌松だけで良しとする人。巻いた菰の先を切りそろえる人、稲穂のついていた部分を残して拵える人。菰にまく縄が 下から七周 五周 三周のご縁起に拘る人。飾るのだって 外飾りに内飾り ...それこそもぉ 切りが無くってねぇ。また その講釈をおそろかにしようもんなら 後が大変なんですよぉ... 「そぉいやぁ、昔キーパーのいたとこの あのオッサンなんかもさぁ。竹を縛った縄の結び目を捻ってそそり立たせることに悦びを見出す人?ウザかったなぁ。この時期、人の顔を見ると 門松作っている現場まで手を引っ張って人を歩かせて『太く固く長く 反り返らせる』って、何度も同じ話をしてさぁ。『ホレ、立派に勃ってるだろ?』ってさぁ ...そぉいや あのセコくて吝ンボで タカり屋のエロ親爺。今何してるの?」
あたしゃぁ 知りませんがな ...そういえば、昔 余った材料で小さいのを拵えて貰ってさぁ。松の内だけ スタートホールの白マーク代わりに置いてみたことがあるなぁ、
「あぁ、良いですねぇ。そう云うのも」
ご風情だと思いますでしょ。ところがさ。これがお客さんのなかに 洒落の分からない人がいてさぁ。マスター室に『白マークが無いんですけど?』なんて 無粋な問い合わせしてくれちゃったもんで、マスターから 門松の脇に白マーク置いてくれって ...そんな無様じゃぁ やらねぇ方が良いだろぉって、春永早早のがっかり ...おまけに二日目の夜に雪が降っちゃって。夕方取り込んで屋根の下に置いといてってぇのを若い衆さんが忘れたもんですから 台無しになっちゃったりもしましてねぇ、
「あらぁ~」
でも、来年の正月はやってみましょうかねぇ。小さい門松なら 今からでもまだ間に合うし ...クリスマス期間中は クリスマスツリーてぇ洒落もあるなぁ、
「キーパー、それ。乗った。良い商売になるかもしんないよ。限定十組とか、おぃちゃんに作って貰っててよ。これから俺 注文とってくるからさぁ」
―――― って、あんたのそれが一番危ないんだ
A Golf Courase Maintenance Fable
Another Time Another Course
...From His Field Note 2017_12_18
そを人は 虚実の皮肉と云ふさうな...