From His Field Note : グリーンキーパーの野帳から

一季出版(株)発行 月刊ゴルフマネジメント誌連載中の –グリーンキーパー の野帳– のスピンオフと申しましょうか 補助線と称してあれこれと...

【 第136回の補助線 四本目 】 お届けの皆さんも集えよ このホールに...

2018年 2月号 第136回 皆集えよ あの旗の下により...

 ―――― ちぃさまぁ、モクモク会の二号車だけど“限定アツアツ鍋焼き饂飩”と“おすすめ・冬のチーズグラタン”二つずつ。上がったらすぐに食べられる様にお願ぁ~い』

 

...キーパー、マイドォ~」
 おっ、こっちこそ 毎度ぉ。今日は配達かぇ?
「配達ってぇか、お届けです」

◤ それってどう云う使い分けなんだか...

「試作品の厚揚げです ...ってぇか、普通の油揚げと 普通の厚揚げのちょうど真ん中くらいの厚さの ... 云ってみたらぁ ...薄揚げ?」
 なんだそりゃ?
 ―――― 史上最高の寒気とやらに凍える 積雪クローズの金曜日のコース、人影も無いホールレストランであります。やってきた若い衆わかいしさんは、地元の豆腐屋の三代目...
料理長からの特注なんです。焼いて 出汁醤油と柚子入り七味で食べるのに、厚揚げはちょっと厚いし、油揚げだと薄いし ...ちょうど 半分くらいの厚みで揚げられないかって。表面のカリカリの焦げ目と、中身のフワフワの豆腐の食感と口触りが愉しめ無いかなぁって」
 へぇ~、面白そうじゃん、
「俺もそう思って 安請け合いしちゃったんですけどね。やってみたら 火の加減とか、鍋からの上げ時とか、結構難しいんですよ。アレコレの手間ぁ考えたら、普通の厚揚げの厚み半分だからって、全部半分にすれば良いってモンじゃぁないし。値段も半分ってわけにはいかないかなぁ」
 まぁ、それはうちのシェフさんと相談してみておくれな、
「でもまぁ、半額かなぁ。もし ウチの店でも売り出せるようなら、どんどん売ってくれて 全然構わないって、料理長も 云ってくれてるしさぁ」
 そぃたら“薄揚げ”じゃぁなくって、なんか気の効いた名前着けた方が良いかもねぇ、
「まぁ、今日はその相談もありましてねぇ。今料理長が試作中なんですけどぉ ...大丈夫かなぁ~」
『しーさん、豆腐屋の若旦那。そこに居るぅ?』
 ―――― って 若やいだ無線の主は 厨房の寡婦のシェフでありまして...
 いるよぉ、
『ちょっと 厨房に来てもらってぇ』
 ぁぃよぉ~。三代目、早速 厨房からお呼びだよぉ、
「あれ? ダメだったかなぁ~ ...やり直しかなぁ~。じゃぁ キーパー。また よろしくお願いします」
 ―――― 頭を掻き掻き 三代目豆腐屋、小走りに厨房へと駆け込んでゆきますが...

 

...おっ、居た居た。やっぱしここに居やがったな、この ホールレストランの大将」
 すりゃ なんなんだ
「で、どうよ?」
 ―――― ってか あぁたハイランダーも主語無し族かいな
「なんだよ、ホントに察しが悪い人だなぁ」
 ―――― おぃ、ちょとまて
「随分雪融けてンじゃない? ...日陰のラフに残っているくらい?ふぅ~ん。で、何時から営業するのよ …明日から?良いなぁ おぃ …なぁんて言うと思ってたぁ?ホールレストランの大将ぉ~ ぉひひひひ...」
 あれ?

◤ 随分と余裕じゃぁないですか

「ダメだよ、ウチなんかさぁ。なんせ寒すぎて 融けやしねぇ。ったくよぉ、この間ッから 毎日まいんち毎日まいんち『昨日より寒いンじゃねぇ?』ってのが 朝の挨拶代わりだぜ。毎日まいんち最低気温が下がり続けてぇてよぉ、ついに今朝の夜明け前は マイナス十五℃だぜ。日中だって マイナスのまんま。融雪剤撒いたって 融けやしねぇし ...なんたってさ。雪の明日は 日の出る前に ティとグリーンに融雪剤撒いてきとくれ。それが終わったら 昼までは 詰め所でスマホのゲームでも居所寝でもしてぇて構わねぇって、午前中は“やりきり仕舞い”の段取りだったんだけどな。そうなると 若い衆わかいししっちゃき、、、、、になるじゃん。それがなんせ合羽着て動散動力散布機背負っての雪中行軍だろ。汗かくじゃん。その汗が動散のホッパーに滴ると、その瞬間に凍っちゃう。汗かきのヤツが合羽のフードの下に被っていたタオルの端っこが凍って 髪の毛に張り付いて 頭から離れなくなっちゃう。帽子のヒサシを伝った汗も ツララみたいに凍っちゃう。凍った手袋が パキパキ音を立てて、縫い目がさばけるちゃう ...いやぁ、こんなの何十年ぶりだろ。そぉいや、あの頃は 一回のドサンが融けないまま、追加追加の降りに右往左往してるうちに 春になっちゃったりしてさぁ。結局 一冬おじゃんだったとか、あったしなぁ。いやぁ、こんなに寒いのも久しぶりだよなぁ。でも昔はさぁ、 コースの中の凍った池の上を ジープで突っ切って遊んでたりもしてたんだぜ」
 ―――― 富士五湖の一つに山中湖ってありますけど。昔はその上に戦車が乗ってたそうですが、そんな感じ?
「『チェーンかけてるから大丈夫だ』って 調子コいたバカが、融雪剤積んだ二トンダンプを氷の上に載っけて池の真ん中まで走ってって、物の見事に水没さしたりもしてぇたけどもがなぁ …今 キーパーやってるヤツだけどな」
 ―――― おいおぃおい
『しーさぁん、お試しできたヨォ。“随分と半端な厚揚げじゃん?”焼き直してみたのぉ。出汁醤油と 柚子入り七味で食べてみてくださぁ~い』
 はいよぉ、冷めないうちに すぐに行くよぉ、
『お酒は 山梨の小さな蔵元から仕入れてみた 冷やだけど、お口に合うかなぁ。それもご感想ぉ ヨロシクゥ~』

日の出前に散布して 36時間経過w

寒すぎw

「おっ、悪いねぇ。クローズのお昼時に押しかけちゃったのに、お心遣いまでいただいちゃってさぁ」
 ―――― と云うことで何故かハイランダー高地のキーパーさんの大将と 卓を囲んでおりますが
 ...で、小父さんは 寒すぎて雪も融けないしで、とうとう開き直っちゃったんですか?
「ってか、雪降ってこの方のお天気で 毎日まいんちの段取りのはかがいっちゃってよぉ。駐車場もカート道も作業道も雪掻きしちゃったし。ティからグリーンまで 墨汁だの 有機の融雪剤だのって撒ききっちゃったし。でもこの気温だろ、全然融けてくんねぇし ...もぉ、お手上げだよ お手上げ。支配人に『まだやりますか?ヤレってば やりますよぉ?』って聞いたら『お天気には敵わないんだヨなぁ~』って、手詰まり。投了。感無量のバンザイ三唱だし」
 で、それが?
「おさん 本当に察しが悪いなぁ …美味い。これいけるぞ。厚揚げ焼いたのとも、油揚げ焼いたのとも。歯ごたえも食感も違ってぇて ...でも ちょうど良いじゃん。この辛口の冷やとも良く合うわぁ」
 だ か らぁ、なに?
「おれはさぁ 美味い昼飯を喰いに、美味い酒を呑みに来ただけだよぉ。ココだったら クローズでも、なんか美味いもの喰わしてくれるだろうってさぁ。おさん そのくらいのことも解らねぇのかよぉ」
 ―――― やれやれ

 

「キーパー、マイドお世話サンです」
 いやいや、こちらこそ毎度ですぅ。今日は 配達で?
「いゃ、今日はチーフのオリジナルのオーダーでのお届けがありましてねぇ。それにしても キーパーのトコのチーフ、本当に熱心ですねぇ。感心しちゃうわぁ」
 ―――― ぃゃぃゃ、それもこれも 皆さんのおかげさま
「で、さぁ。ちょっと相談があるんですよ、キーパー」
 ―――― って、出入りの肉屋さんと一緒に来てぇるのは 馴染の八百屋さんに 酒屋さん。おまけに さっきの、豆腐屋の三代目かいな......

 


A Golf Courase Maintenance Fable
Another Time Another Course
...From His Field Note 2018_01_26 / Tomorrow will open

そを人は 虚実の皮肉嘘と真の綱渡りと云ふさうな...